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午後三時、ソンテウ(ピックアップ・トラックの荷台部分を改造した小型バス)に乗って、市場に出かけた。
前日、同じルートのソンテウの窓越しに見たカラフルで楽しそうな市場は、ただの埃っぽい空き地になっていた。曜日によって立つ市だったのかもしれない。私はがっかりし、ソンテウから降りるのも忘れて、そのまま終点のタウンまで行ってしまった。
タウンの電話局から日本に電話をかけ(タイでは一般の公衆電話から国際電話はかけられない。公衆電話機もテレカも国際電話専用のものがある)、一個五バーツの春巻きを二つ買い食いし、午後六時半、さて帰ろうと停留所に戻ると、最終のソンテウはもう出発した後だった。
なにからなにまでちぐはぐで、今の私に似つかわしかった。群がってくる客待ちのモトサイ(バイク・タクシー)を全て断り、暮れ始めたタウンの街並みをあてもなく歩く。夕刻特有の、特別な感情が込み上げてくる。前にもこれと同じような事があったけれど、いったいいつの事だったのだろうか? 私の前に延びているのは果てしない迷路。私の後ろに広がるのも果てしない迷路。思えば、私はいつも馴れない場所を地図もなく、歩き回っていた。日本でも国外でも、人波の中でも、そして自分自身の中でも・・・。
そんなことを考えながら、なぜ歩いているのかも忘れた頃、1台のトゥクトゥク(軽自動車を改造したタクシー)に声をかけられた。「どこまで?」今まで数限りなく聞いてきた、馴染みのある、そしてうんざりする台詞。けれど、帰るためには運転手の提案通りに、この車に乗るのが一番いいのだ。一昨日買った、新しいビーチサンダルの固い鼻緒でこすれた人差し指のつけねには、まめが出来ていた。
帰ろう・・・運転手と料金の交渉をしながら、薄暗い後部座席に目をやると、そこにはおかっぱ頭の女の子が座っていた。足元には、ドリンク剤のダンボール箱と、ビニール袋に入ったストローの束があった。この運転手は自分の仕事が終わった後、学校に子供を迎えに行き、父母と妻が営む雑貨屋の商品を市場で買い出しし、これから家に帰るところなのかもしれない。夕食の準備をしながら家族の帰りを待つ、逢った事もない運転手の妻の姿が目に浮かんだ。
交渉結果の料金は、思った金額より少しだけ高かったけれど、私はこのトゥクトゥクに乗る事にして、女の子の向かい側に座った。この親子に、一日の終わりに金払いのいい外国人旅行者を捕まえる事が出来て、自分達はラッキーだと思って欲しかった。
トゥクトゥクは闇の中を走り出す。女の子はしばらく絵本を読んでいたけれど、そのうちに座ったまま眠り込んでしまった。ドアのない出入り口から女の子が転げ落ちてしまいそうで、私は心配を運転手に告げた。「問題ないです」彼は答えた。そうなのかもしれない。けれど、私はやはりきがきでなく、どうにかしてほしいと頼んだ。彼は車を停めると私の言葉にしたがって娘を抱きかかえ、横たわらせた。女の子は目を覚まさなかった。安心しきって眠っているように、私には見えた。
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