私の好きな詰め将棋                         



(1)「虎バサミ」  小菊花 氏作    昭和56年6月号 詰め将棋パラダイス 掲載




初見の方は是非解いてみてください。



詰め将棋の芸術性について論ずるとき、他の芸術作品とは致命的に違う欠点があります。
詰め将棋が謎解きである以上、高級なものほど難易度が高くなり、一般の人には手が出なくなってしまう・・・。
そして、謎解きを前面に出した作品は一部の専門家にしか理解してもらえなくなってしまう・・・。

今から20年以上前、般若一族と名乗った不思議な詰め将棋作家集団が専門誌に次々と傑作を発表しました。
それらの作品群はあまりにも難解だったため、傑作であったにもかかわらず我々凡人には理解できませんでした。
その作品群の内、最も印象に残っているのが本局です。
盤面わずか12枚の配置から繰り広げられる、摩訶不思議な詰め手順。
作意手順から変化、紛れ順まで81格の空間を有機的に使い切った壮大な構想。
時代を超えたこの傑作に、少しでも迫ってみたいと思います。



【作意】                                          
34飛、22玉、33角成り、21玉、43馬で下図                   


初手36香では22玉、32飛、21玉・・・で捕まりませんから飛車を打ちます。
34飛はもちろん限定打。33角成りに12玉は15香と打ち、合駒を取って詰みます。
そこで21玉に43馬!が好手。
同銀なら61飛成以下詰みますが、・・・

【作意 続き】
22玉、44馬、

作意は22玉と逃げます。
12玉の場合、13香、13角合、同香成、同玉、31角、22香合、同角成、同玉で作意か?と思わせますが、実は13角合の時、32飛成、22金合、13香成、同玉、22竜・・・として早く詰んでしまいます。
詰めパラ掲載時、実力者がここで間違えたとか。

22玉の時、32飛成りか44馬か?最初の分岐点です。
もし32飛成りと行くと、
『以下紛れ順』・43馬・22玉型
32飛成、13玉、15香、14桂合(他の合駒は詰みます)、同香、同玉
となって、26桂と打つのは13玉と下がられていけませんから、

(1)12竜、24玉(下図、13合い駒は詰みます)、64飛、35玉、

ここからさらに32竜や15竜、65飛などの紛れがありますが詰むのかどうか???。
(2)64飛は24桂合い、同飛、同歩、12竜、13香合い、26桂、15玉、13竜、26玉、17竜・・・以下これも大海へ脱出

詰むのか詰まないのか良く解りませんが、こんな追い回し順が作意のはずがないと割り切って、「44馬」としてみます。

【作意 続き】
21玉、54馬、12玉、14香、13角合、同香成、同玉、31角、

どうやらこちらが作意のようです。
44馬に対し33中合は、現時点の持ち駒が「香」なので同飛成以下簡単です。
14香打ちに13角の限定合駒、さらに31角と打って22香合をしてくれれば馬鋸が始まります。
22に金または銀の合駒ならば簡単ですから、桂合いは?

[以下変化順]・31角、22桂合、同角成り、同玉、44馬、33桂中合
33桂合のところ21玉は13桂、12玉、32飛成り、13玉、22馬、以下詰み。
またも桂中合いです。
先ほどは持ち駒が「香」でしたので桂中合いは簡単に詰みましたが、こんどは「桂」です。
同飛成り、13玉、35馬、12玉、24桂、同歩、34馬・・・で詰みました。
ここで注意!54馬は、「54・44・35・44」と動いています。

【作意 続き】
22香合、同角成、同玉、(下図18手目)

ここで55馬とすれば馬鋸が続けられそうですが、32飛成りは?

『以下紛れ順』・54馬・22玉型
32飛成り、13玉、15香で、

この局面は24玉でも、14桂(香)合いでも詰みそうにありません。54馬が67飛車の活躍を阻んでいるのです。

この辺でようやく作者の意図が見えてきました。
角香合い入りの馬鋸を駆使して43馬を54,65,・・・と遠ざければ良い?のです。

【作意 続き】
55馬、21玉、65馬、12玉、14香、13角合、同香成、同玉、31角、22香合、同角成、同玉、

作意18手目と同じ様な局面になりました。違いは54馬が65馬になっただけです。
ここで32飛成りは詰むのでしょうか?
いや、いかにも65馬が67飛車の活躍を邪魔しているような気がします。
一つだけ注意点ですが、31角に対する22桂合い駒は、65馬が「65・55・46・45」と動いて詰みます。

もう少し馬鋸を続けてみましょう。

【作意 続き】
66馬、21玉、76馬、12玉、14香、13角合、同香成、同玉、31角、22香合、同角成、同玉、(途中22桂合いは76馬が「76・66・57・56」と動いて詰みます。

やっと67飛車の活躍の場が出来ました。
32飛車成りと行ってみましょう。

『以下紛れ順』・76馬・22玉型
32飛成、13玉、15香で
(1)24玉は、64飛、44歩中合、同飛、15玉、45飛で、
(44歩中合いをせずに15玉は35竜、25合い、同竜、同玉、58馬・・・で詰みます)、

 (1−1)25香合いは、同飛、同玉、58馬、24玉、27香、25桂、同馬、16玉、14馬、同玉、23竜以下詰み
 (1−2)25桂合いは、同飛、同玉、58馬、24玉、57馬以下詰み
 (1−3)24玉は、35竜、13玉、14歩、12玉、32竜、22金合い、同竜、同玉、13金、33玉、43馬、同銀、同と、以下詰み
いずれもぎりぎりの手順で詰みます。作意か?と思わせますが・・・

15香に対し、14に合駒ですが、
(2−1)14香合は、同香、同玉、64飛で、
 (2−1−1)24香合、58馬、25合い、同馬、同玉、65飛、以下
 (2−1−2)24桂合、58馬、25香、24飛、同玉、25馬、同玉、26香、同玉、36竜以下
 (2−1−3)24銀合、58馬、25香(15玉は65飛、25香以下ほぼ同じ)、24飛、同玉、25馬、同玉、26香以下
 (2−1−4)24角合、58馬、25銀(25香合いは24飛以下、)、同馬、同玉、24飛以下
 (2−1−5)24金合、同飛、同歩(同玉は25金!、同玉、58馬以下) 12竜、で
  (2−1−5−1)13香合、32馬、15玉、13竜、26玉、24竜、36金、17玉、18歩、27玉、25竜、38玉、28竜、47玉、65馬、56合い、49香以下詰み
  (2−1−5−2)13桂合、32馬、15玉、13竜、26玉、24竜、37玉(25合い、同竜、同玉、36金以下)、28竜、46玉、47香、同玉、49香以下詰み
  (2−1−5−3)13銀、金、角合は早い
恐ろしい詰め手順です。

(2−2)15香に対し14銀、金、角合いは14香、同玉、64飛、の筋で詰みます。

(2−3)14桂合、同香、同玉、64飛で
 (2−3−1)24歩突、58馬、25銀、同馬、同玉、34竜、26玉、66飛、27玉、24竜以下詰み
 (2−3−2)24香合、同飛(58馬は13玉で不詰め)、同玉で不詰め
 (2−3−3)24桂合、58馬、25香合いで不詰め(詰めパラ解説では25銀合いで不詰めとありますが、25銀合いは同馬、同玉、34竜、26玉、66飛・・・で詰むようです)

つまり、76馬型での32飛成りは、15香に対し14桂合いでさらに64飛に対し、24香合いまたは24桂・25香合いで詰まないようです。

もうこの辺で頭はパニック!!!

もう少し馬鋸を続けてみましょう。

【作意 続き】
77馬、21玉、87馬、12玉、14香、13角合、同香成、同玉、31角、

先ほどまでは、ここでの22合駒は「香」でした。

『以下変化手順』
22香合、同角成、同玉、32飛成、13玉、15香、14桂合(24玉は先ほどの64飛で詰みます。また香合いも同様)、同香、同玉 
で、先ほどはここで64飛として24香合または24桂・25香合で詰みませんでした。
そこで今度は、先に69馬としてみます。これが出来るのは87まで馬鋸をした効果です。
『変化手順 続き』
69馬、25桂合(他の合い駒は同馬、同玉、65飛以下)、64飛、で
 (1−1)24歩(香、桂)は12龍、13合、25桂以下、
 (1−2)24銀、(金、角)は同飛以下
 (1−3)13玉、68馬、24桂合、23龍、同玉、24飛以下
この22香合は全て詰みました。手順は最長で85手のようです。
これが作意でしょうか?いやいや・・・

では、「22桂合」は?
『22桂合、同角成、同玉、77馬、33桂合、同飛成、13玉、
先ほどまでの変化手順では、この13玉の局面で、77馬を68馬、・・・、67馬と活躍させて香合いより早く詰んでいました。
しかし、この87馬型では最後67馬としたいのですが、67飛が邪魔をしてこの手順では詰まないではありませんか!
今までは、54・65・馬が67飛の邪魔をして詰み形にならず、76馬の場合は67飛が邪魔をして詰み形にはなりませんでした。
そして87馬の場合には「22桂合い」の変化で、67飛が87馬の邪魔をしているのです。
「67飛」1枚の存在が、ここまで深く関わるとは!!!

仕方ないので攻め方を変えてみましょう。

【作意 続き】
22桂合、同角成、同玉、77馬、33桂合、同飛成、13玉、25桂、14玉、64飛、

 ここで変化は
  (1)15玉は27桂、26玉、36龍、17玉、44馬まで
  (2)24合いは、同飛、同歩、13桂成り以下
 そこで、変化(1)の最終手44馬を防ぐため、44に中合いします。

【作意 続き】
44歩中合、同飛、15玉、14飛、同玉、13桂成、同玉、68馬、

 ここで12玉と逃げると、13歩、21玉、23龍、31玉、33龍、32合、23桂、21玉、11桂成、31玉、21成桂、同玉、12歩成以下詰み

【作意 続き】
14玉、15歩、同玉、35龍、14玉、26桂、13玉、15龍、22玉、77馬、33角合、同馬、同玉、11角、32玉、12龍、31玉、22龍まで
87手詰め
最終近く、77馬に33角合いは「34桂、31玉、11龍」の筋を防いでいます。

やっと詰みました。

普通馬鋸と言えば、その目的が比較的簡単に解るものが多いです。従って馬鋸の移動場所も解りやすいのです。
しかし、本局の場合、馬鋸に気づいてもどこまで遠ざかって良いものやら?
22玉型で32飛成り・・・と攻めるのが目的ですから、43馬は遠ざけず近い方が普通は有利です。
43馬の時点で32飛成り・・・では詰まないのが今でも理解できない不思議な逃れ順ですが、76馬の時点での32飛成り・・・の紛れも強烈です。

それらの難所を乗り越えて、ようやく87馬まで馬鋸引きの理由を発見して解けた、と思った瞬間をついての破調の22桂合い!。
実力者がここで誤ったのも無理からぬ事です。

以下、詰めパラS57.01号からの引用です。

*何故馬を引くのか?この意味はなかなか判然としないであろう。紛れDでも述べたように「67飛」と馬との二つの大駒の相対的な邪魔駒関係を回避する手段なのである。先ず「67飛」の邪魔をしている「馬」を76まで鋸引きして行く。ところが「76馬〜67飛」型になった時点で今度は「馬」を引くのを「67飛」が邪魔をしている。そこで馬を87まで鋸引きする訳。
ところが「87馬〜67飛」型になった時点で31角打ちに対する合い駒が香から桂に変化する。今まで桂合いが割合に簡単にしかも早く詰んでしまったのでウッカリする処(事実3名の実力解答者ここで転倒した)。これは紛れEでも述べたように桂合いに対する馬の活用の最終地点「67」を飛が邪魔をしていることになるもので馬鋸成立の意味づけ同様、位置関係の相関性を利用した高度かつ難解な意味づけである。

作者は、本局の目的を「人間の慣性を利用したトリック」としているそうです。
しかし本局を改めて見直してみますと、単なるヒッカケ作ではなく、駒の位置関係を利用した空間の魔術という表現がピッタリの大傑作です。
67飛1枚の存在で、43馬を54でもなく、65でもなく、76でもなく、87まで鋸引きさせるとは・・・。

長編を作るとき、「テーマ」「テーマの変化紛れ部分」「収束」とそれぞれ盤上での場所を変えて作ると、作りやすいですし、何より後の検討で余詰め・不詰めがでた場合修正が楽です。
しかし本局は、それら全てを盤上で干渉させ、しかも持ち駒を含めてたった14枚の駒でこの手順を表現しており、奇跡的としか言いようがありません。
コンピュータの無い時代、43馬型と76馬型での32飛成り以下の紛れ順をどうやって不詰めと見切ったのか?。単に不詰めにするだけでなく、主要紛れは詰む設定にしてポイントだけ不詰めにした作者の力量にはただただ唖然とするばかりです。

作者について私は何も知りません。
作者はこの後、数局の傑作を発表し、残念ながら詰め将棋界から姿を消しました。
是非、またカムバックして本局以上の傑作を世に披露してもらいたいものです。


                                   

文責 高橋 恭嗣